イザークの散々な誕生日
yzak + dearka × athrun
| 今日も疲れた。頭のかたいお偉方の相手は大変だ。ラクス・クラインが新議長になってからは幾分ましになったような気はするが。 先の戦争の後、ラクス・クラインは評議会に招集され、議長に就任することになった。以降、護衛の任にあたることも多い。 今日はその護衛をおおせつかったのだが、行った先の会談で相手の態度が頗る悪かった。議長もよく我慢できると感心したものだ。 自宅にたどり着く。ロックを解除してドアを開けると、思わぬ人物が迎えた。 「おかえり、イザーク」 思わぬ人物が、以前に、自分はひとりで暮らしているのだから、誰もいるはずがないのだ。しかし、声の主はなんだか楽しそうに迎えた。 「あ、あ…アスラン!!!!?」 「久しぶり。元気だったか?」 こっちの驚きなんて気にしない風で、元同僚…アスラン・ザラは再会の挨拶をしてきた。 「貴様、プラントに戻って…、いや、そのまえに、どうやってここに入った!!!?」 鍵はたしかにかけて行ったはずだ。朝のことを思い出す。 「まあ、そんなこといいじゃないか。それより、誕生日おめでとう」 「え…」 誕生日。 …そうか。今日は8月8日。 自分でも忘れていた。 「あ、ありが…」 「そうだ。ディアッカがどこにいるか知らないか?」 ……は? 礼を言おうとしたのを遮られる。こいつ、オレの誕生日を祝いに来たんじゃないのかよ。 いや、ここで怒ったら祝ってもらえたのが嬉しかったみたいじゃないか。嬉しくないわけはないが… 「なぜやつの居所をオレに聞くんだ。というかあいつは地球じゃないのか?」 いらいらとしかたなく答えてやる。ディアッカが地球勤務になってからかなり経つ。アスランだって知っているはずだし、ディアッカからのメールから推測するに一緒に生活している…ようだ。…はあ。 「書き置きを残していなくなっちゃったんだ。ちょっとプラントに帰ってくる…って。で、オレもしばらく帰ってなかったから…」 「あとを追って来たってわけか。バカバカしい…」 なんなんだこのバカップル。ディアッカも相当だがこいつも変わらないじゃないか。 オレのことはついでか。なんだこの気持ち。 「おまえの誕生日だって気付いて、ディアッカも来るかなーと思って」 「うちを待ち合わせ場所にするなあ!!!!!!」 本当、勝手なやつだ。結局どうやって侵入したかもわからないし、そもそもどうしてこの家を知ってる? 「まあまあ。じゃ、チェスの相手でもするから。ディアッカが来るまで」 「……………」 わざとなのか? よくもまあここまでひとを苛立たせられるものだ。というよりディアッカが本当に来るかなんてわからないじゃないか。 「まあ、いい。今日は勝たせんぞ」 こんなのは本当に久しぶりだし、まあ、許してやろう。 「チェックメイト」 クイーンを高らかに音をたてて置く。もう逃げ場はないぞ。 「…………………………」 「さっさと投了しろ。腕が鈍ったんじゃないのか?」 ふふん、と鼻を鳴らす。誕生日だからといって手加減していたわけではないだろう。そんなことはこいつのプライドが許さないはずだ。 「…もう一回だ」 「ふん。結果は変わらんと思うがな!」 何度か危ないところはあったのだが、そう言ってやる。こいつにも悔しがるという感情があったんだな。新発見だ。 二回戦のために駒を並べていく。しかし、アスランの手が止まったのに気付いて、睨み付ける。 「どうした?」 「いや…なんでこんなところに住んでるんだ?」 アスランは部屋を見回していた。ワンルーム、風呂・トイレつき。ひとりで暮らすには十分だ。どうせほとんど帰ってはこないし。 「あの家には…住めない、からな」 生まれたときからずっと住んでいたジュール邸を思い出す。あの家に戻るのは気が引けた。ここが職場に近いというのもあるが。 「…ごめん」 アスランは変な顔で謝ってきた。別に謝られることでもないが。 「オレも、あの家は売っちゃったからな。プラントにきても帰る家はないんだ」 「売っ……」 売ったって。 …思ったよりものに頓着しない質らしい。ザラ邸も、今や住む人間もいないだろうけれど。 「………帰る家がなくてもプラントはおまえの故郷だろう」 「…イザーク…」 こういう使われ方は腹が立つが、帰って来たら泊めてやってもいいか。同じ赤の軍服を着ていたころだったら考えもつかなかっただろうが。 「今度帰ってきたら泊…」 ピンポーン。 …誰だ。こんな絶妙なタイミングでやってくるやつは。…予想はついているが。 「あ。ディアッカかも。はーい」 「勝手に出るなああああ!!!!!!」 オレの立場って、一体。 「あれ? アスラン。なんでこんなところに?」 予想通り、チャイムの主はディアッカだった。本当に来やがった… 「里帰り、だよ」 帰る場所がないとか言って置きながら随分だな。ため息をつくとディアッカがこちらに気付いた。 「あ、イザーク。誕生日おめでと。いやあ、近くまで来たからちょっと寄ってみた」 「どいつもこいつも………!!!!!!」 別に、誕生日を祝われるのがなにかのついでだということに怒っているわけではない。断じてない。 「まあまあ。酒買ってきたから飲もうぜ。3人うまいこと集まったことだし」 そう言ってディアッカは持っていたビニール袋を目の前に差し出した。 「…ふん。いいだろう」 なんだかんだ言って、誕生を祝ってもらえるのは嬉しいのだ。 ここで許したことを、ものすごく後悔することになるのだが。 というのも、あろうことか、酒の効果かふたりは目の前でいちゃつきだしたのだ。これには普段寛大なオレも我慢できない。 「貴様ら、ここから出ていけええええ!!!!!!」 つまみ出してやった。本当に迷惑なやつらだ。 「二度とここに来るなよ!!!」 そんな心にもないことを言って。気付くと日付が変わっていた。 まったく、散々な誕生日だったな。 end. |